Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
おつきさまのうた
豊島与志雄童話集
豊島 与志雄
Read 豊島与志雄童話集 (おつきさまのうた) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,569 characters · 336 screens
幹の影と自分の影とが地面にくっきりうつっていましたが、花は月の光をとおして、ぼーとうす明るく、まったく白雲のようでした。
その白雲の下に、向こうに、正夫がぼんやり立っていました。
私はほほえんで近づきました。
「桜の花は、月の光で見るのがいちばんきれいだねえ」
正夫は私の顔を見たきり、いつまでもだまっていました。
「どうしたの」と私はたずねました。
「だって、僕心配だもの」
「何が?」
「この木ですよ」
正夫が指さしたのを見ると、それはひときわ大きな桜の木で、まるく枝をひろげて、しなうほどいっぱい花がさいていました。日傘の上に白い雲と月の光がつみかさなったようで、じつにみごとでした。
その木を見てるうちに、私にも、正夫の心配がはっきりわかってきました。
昼間のことでしたが、遠いところから、ここの桜の花のことをきいて、えらい人が見物に来たのです。そして花を見てしきりに感心していましたが、ただ一つおしいことがある、といいだしました。それは、桜の花に匂いがないということでした。
「これほどきれいに咲いてるのだから、これに、梅の花のようなよい匂いがあったら、さぞよいだろう」