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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
Read 貧民倶楽部 (ひんみんくらぶ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 55,333 characters · 111 screens
六六館に開かるる婦人慈善会に臨まんとして、在原伯の夫人貞子の方は、麻布市兵衛町の館を二頭立の馬車にて乗出だせり。
いまだ額に波は寄らねども、束髪に挿頭せる花もあらなくに、青葉も過て年齢四十に近かるべし。小紋縮緬の襲着に白襟の衣紋正しく、膝の辺に手を置きて、少しく反身の態なり。
対の扮装の袖を連ねて侍女二人陪乗し、馭者台には煙突帽を戴きたる蓄髯の漢あり、晏子の馭者の揚々たるにて主公の威権想うべし。浅葱裏を端折りたる馬丁二人附随い、往来狭しと鞭を挙げぬ。
かくて狸穴の辺なる狭隘路に行懸れば、馬車の前途に当って往来の中央に、大の字に寝たる屑屋あり。担える籠は覆りて、紙屑、襤褸切、硝子の砕片など所狭く散乱して、脛は地を蹴り、手は空を掴みて、呻吟せり。
奮み行く馬の危く鰭爪に懸けんとしたりしを、馭者は辛うじて手綱を控え、冷汗掻きたる腹立紛れに、鞭を揮いて叱咤せり。
「こら、そこを退かんか馬鹿な奴だ。」
夫人は端然として傍目も振らず、侍女二人は顔見合せ、吐息と共に推出す一言、「おお危い。」
屑屋は眼を閉じ、歯を切り、音するばかり手足を悶えて、苦痛に堪えざる風情なりき。