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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
Read 赤ひげ診療譚 (あかひげしんりょうたん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,548 characters · 47 screens
それから養生所へ運んで手当をした、ということにしよう、と云った。去定はてきぱきと手筈をきめ、よく口を合わせてから、おたねは先に帰し、戸板の支度をして角三を乗せると、少しおくれて養生所をでかけた。去定と登、それに薬籠を背負った竹造もいっしょで、伝通院の裏を大塚へぬけ、寺と武家の小屋敷の多い町を、音羽のほうへと向かっていった。――途中で角三が、戸板の蔽いの中から「忘れ物をした」と云い、去定がすぐに、あんな物は忘れてしまえと云った。登はなんのことかわからなかったが、暫くして、ゆうべ持っていた匕首だなと気づいた。角三はそれっきりなにも云わなかった。
音羽五丁目の裏通りへ来ると、路地へはいるところで角三が「その左の角です」と云った。長屋のその角の家は新らしく模様変えをしたらしい、裏通りに面して入口と連子窓があり、雨戸も戸袋もまだ新らしく、ちょっと見ると居酒屋のような作りであるが、その出入り口の雨戸には、幅五寸ばかりの板が斜十字に打ちつけてあった。
「どこからはいる」
「裏に勝手があります」と角三が答えた、「そっちから入れておくんなさい」
かれらは裏手へまわった。