Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

のわき

野分

山本 周五郎

Read 野分 (のわき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,401 characters · 42 screens

Aozora Bunko

八

「若さま、よくわかります、思召しはよくわかりますが」

「そのあとは聞くまでもないよ、爺さん、身分が身分だから、表むきはどこかの大名の娘を娶らなければならぬだろう、だがそれはまったく名だけだ、式張ったときのほかは話もせずに済む、おれにとって本当の妻は、――お紋ひとり、生涯それでとおせるんだ、父のゆるしも得てある、爺さん、これが唯一つ残った、どうしても失いたくないおれの夢なんだ、お紋をおれの妻にして呉れ、爺さんの一生もひきうけるよ」

藤七はながいこと黙っていた、石のように躯を固くして、おそらく膝の上に置いた拳は、膏汗で濡れているに違いない、だがやがて、喉になにか絡まったような声で、こう云った。

「私に異存はございませんが、帰ってお紋によく相談をしまして、それから……」

「待っている、返辞はこの家で聞こう、待っているぞ爺さん」

八

蔦萬を出た藤七は、肩をすぼめ頭を垂れ、気ぬけのしたような足どりで大川を越したが、竪川通りへ来ると眼についた居酒屋へはいって、溜息をつきながら黙って三本ばかり呑んだ、そしてそこを出て二町ほどゆくと、こんどは酒屋の店先で一合桝を二つあけた。