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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,625 characters · 26 screens
なあ、親分。」
苦々しそうに勘次が言った。藤吉は答えなかった。地面へ顔を押しつけんばかりに不意に屈んだ藤吉は、孫右衛門の足跡を食い入るように眺めていたが、
「松さん、昨夜雨の降ったのは――。」
「よくは知らねえが四つ半ごろから八つぐれえまで、夢現つに雨の音を聞いたように記憶えていやす。」
「ふうん。」と藤吉は背を伸ばして、「してみりゃあ、八州屋さんはたしかに四つ半から八つまでの間に帰って来なすったんだ。これ、この足形を見ねえ。歯跡が雨に崩れてよ。中に水が溜ってらあな。どだいこの跡はあまり新奇なもんじゃねえ。草鞋と日和に較べて、深えばかりでだらしがねえのは、後から雨に叩かれたからよ。そう言やあ、蔵の仏もずぶ濡れだったのう。なあ、松さん。」
そこへ彦兵衛が帰って来た。
「ええ親分、この草鞋の跡は新しいもんでごぜえます。付いてから一時とは経ってはいめえ、坂本町から横町を通って蔵へ来ている――。」
「ありゃあ、彦、松さんの足形だ。」
藤吉が言った。味噌松は世辞笑いとともに、
「親分、二階へ上ってお神さんに会ってやっておくんなせえ。」
「あいよ。」と藤吉はなおもそこいらを見下しながら、「松さん、お前さんは御加役だ。