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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,625 characters · 26 screens

Aozora Bunko

」

口惜しそうにおみつが白眼んだ。その眼を見据えて藤吉はただ一言。

「久松留守。」

俯向くおみつ。藤吉は居丈高に、

「旦那は年齢が年齢だ。なあ、それにお前さんはその瑞々しさ。そこはこちとらも察しが届くが、それにしても久松留守たあよくも謀んだもんさのう。」と一歩進んで、「飛んだ久松の孫右衛門さ。旦那のいねえ夜を合図で知らせて、引っ張り込んでた情人あ誰だ? 直に申し上げた方が為だろうぜ。」

「お神さん、もういけねえ。誰だか言いな。よう、すっぱりと吐き出しな。」

傍から味噌松も口を添える。おみつは唇を噛んだ。間が続く。

と、この時、梯子段下の板間で一時に起る物音、人声。

「いた、いた。」

という彦兵衛の叫び。と、揚覆の飛ぶ響き。

「うぬっ!」と勘次。

やがて引き出そうとする、出まいとする、その格闘の気勢。と知るや、物をも言わずに味噌松は階下へ跳び下りる。

「あれいっ、幸ちゃん――。」

立ち上るが早いか、おみつは血相かえて降口へ。

「待て。」

藤吉が押えた。

「待て。よっく落ち着いて返答打てよ。」

と死物狂いのおみつを窓際へ引きずって行って、さらりと障子を開ければ鎧の渡しはつい眼の下。