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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,547 characters · 27 screens
ここへ差しかかった土佐犬甚右衛門、背ろの三人を呼ぶように、さてはまた誰かに合図でもするかのように、一声高だかと遠吠えしたかと思うと、木槌の柄を作して二、三間突き出ている土手の蔭へ走り込んだ。すると、草の間に提灯の灯が動いて、しゃがんでいたらしい人影が、すっくと起ち立った。闇黒に染む濡れた光りの中央に、頤から上を照されて奇しく隈取った佐平次の顔が、赤く小さく浮かび出た。その顔が、掌を口辺へ輪筒にして、けたたましく呼ばわっていた。
「釘抜の衆けえ。ここ、ここ、ここでがすよ。俺あ何です、痺れを切らして待ってやしたがね、まま何せかにせ、どえれえ騒ぎ――ようこそお早く――へえ。え? いや、実はね、あっしが甚右を使えに出したんで――お寝入りしなをなんともはや――だが、こりゃあ途方もねえことが起りましたよ。さ、ここです。ちょいとこちらへ――。」
二
八丁堀海老床の露地の奥、気の早い江戸っ児のなかでもいなせを誇る連中が集っている合点長屋、その一棟に朱総を預る名代の岡っ引釘抜藤吉、乾児勘弁勘次に葬式彦兵衛、この三人が今夜の暴風雨を衝いて犬を追い慕って張出し埋地は木槌山まで出向いて来たについては、そこにただならぬ曰くがあるはず。