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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Read 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,515 characters · 23 screens
たとのこと。
昨夜も昨夜とて和尚の留守を幸い、寺男佐平の手引きで忍んで来る手筈になっていたが――。
「それがまあ、こんなことになろうとは――。」
僧は眼に涙を浮べて手の数珠を爪探った。
「お葬えはお手のもんだ。まあ、せいぜい菩提を――と、それよりゃあ、のう、佐平どんとやら、お寺に昨夜紛失物がありやしたのう?」
提灯屋に小突かれて、佐平は黙って頷首いた。声も出ないとみえる。
「盗人がはいったのけえ?」
佐平は首を縦に振った。
「締りを忘れたな?」
佐平は頭を下げた。
「盗られた物を当てて見しょうか――菜切りだろう、え、おう、菜葉庖丁だろう。」
「へえ。」
と佐平が答えた時、山王旅所へ近い亀島町の薬種問屋近江屋へ使いに行った葬式彦が、跫音もなく帰って来た。
「現場で聞いたら親分はこの寺にいなさるってんで、親分、奴あ近江屋へ行ったに相違ねえぜ。」
「うん、牛蒡買いにか。」
「あい、牛蒡の干葉と黒焼の生姜――。」
「鑑識通りだ、はっはっは、彦御苦労だったのう。」と藤吉は哄笑して、
「そこで、佐平どん、お前に訊くが、今朝、墓場の向うの木の下でお新さんの屍骸を見つけ、この坊さんや引いては自身が、寺社方の前へ突ん出されめえと、これ、この棒で、」