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いさん
銀座復興 他三篇
水上 滝太郎
Read 銀座復興 他三篇 (いさん) by 水上 滝太郎 (みなかみたきたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 40,579 characters · 82 screens
「澤さんは羨しいわねえ。学校さえ卒業すれば、後は自分の腕次第でしょう。男はほんとにいいと思うわ。」
いつも養子は口癖にして、女性の生甲斐なさを嘆いていた。気の毒な身の上と、女ながらも自力で何かしたいという意気と、世が世ならばと胸中ではなぐさまずにいながら、さばさばしたとりなりの一切が、澤には気持よく思われて来た。
殊にこの一箇月半の鎌倉の生活が、一層二人を親しくした。澤が食当りで五日ばかり寝た時の養子の看護は、母親の慈愛の温さを知らない青年の心には、忘れ難いものに思われた。いつの間にか、澤は養子に対して苦しいような慕わしさを感じるようになった。恋愛の冒険的の興味をついぞ知らない澤の事だから、恋は直ぐに将来の結婚の問題だった。身よりのない二人こそ終生の最もいい伴侶だというような、真面目くさった考も持っていた。とにかく自分の心持だけはいい機会に打明けて、先方からもはっきりした言葉を酬いられたいと願っていた。心と心とが許しあった男女の清い交際と云った風な、感傷的な小説らしい空想が、彼の頭にはいっぱいだった。
そこに、烟ったい主人夫婦の帰った後の、解放された延びやかな心持が、もくもく湧返って来た。