Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
なべしまかいのかみ
鍋島甲斐守
吉川 英治
Read 鍋島甲斐守 (なべしまかいのかみ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,322 characters · 23 screens
四
だが、甲斐守も、今日は匙を投げてしまった。――今、証書を手にとってみても、法律から見て、どこを衝くという隙もないし、何か、彼の尻尾でもつかまえてと考えても、この彦兵衛には、
御尤の彦兵衛
と云う綽名さえある位で、脅しても、賺しても、又、撲る権幕を見せても、
(ハイ、御尤で、ハイ御尤で)
と、御尤一点張で、頭ばかり下げている男なのである。
この上は、情を衝くよりほかはないと、甲斐守は思った。どんな極悪といわれる人間にも、古井戸のようなもので、悪い水を汲み尽せば、やがて底のほうから真清水が湧いてくる例を、幾たびも見ているからである。
四
『どうじゃ彦兵衛、もいちど考え直さぬか。成程、御法規から見れば、おまえの云い分がたしかに適っておる。だが、人道というものから見ると、おまえは、旧主の首を金の力で縊ったことになるぞ。御法規がそちを罰することが出来ないにせよ、世間がそちをきっと憎むと思うが』
『御尤でございます』
『本音を吐け、真実をもってお答えせい』
『イヤ、私も、それは御尤だと考えますので――』
『ではなぜ、和解してやらぬか』
『私が承知いたしても、証文が承知いたしませぬから』