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くにさだえがく

鏡花短篇集 川村二郎編

泉 鏡花

Read 鏡花短篇集 川村二郎編 (くにさだえがく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,644 characters · 40 screens

Aozora Bunko

」

ごろごろと静かな枢戸の音。

台所を、どどんがたがた、鼠が荒野と駈廻る。

と祖母が軒先から引返して、番傘を持って出直す時、

「あのう、台所の燈を消しといてくらっしゃいよ、の。」

で、ガタリと門の戸がしまった。

コトコトと下駄の音して、何処まで行くぞ、時雨の脚が颯と通る。あわれ、祖母に導かれて、振袖が、詰袖が、褄を取ったの、裳を引いたの、鼈甲の櫛の照々する、銀の簪の揺々するのが、真白な脛も露わに、友染の花の幻めいて、雨具もなしに、びしゃびしゃと、跣足で田舎の、山近な町の暗夜を辿る風情が、雨戸の破目を朦朧として透いて見えた。

それも科学の権威である。物理書というのを力に、幼い眼を眩まして、その美しい姉様たちを、ぼったて、ぼったて、叩き出した、黒表紙のその状を、後に思えば鬼であろう。

台所の灯は、遙に奥山家の孤家の如くに点れている。

トその壁の上を窓から覗いて、風にも雨にも、ばさばさと髪を揺って、団扇の骨ばかりな顔を出す……隣の空地の棕櫚の樹が、その夜は妙に寂として気勢も聞えぬ。

鼠も寂莫と音を潜めた。……

八

台所と、この上框とを隔ての板戸に、地方の習慣で、蘆の簾の掛ったのが、破れる、断れる、その上、手の届かぬ何年かの煤がたまって、相馬内裏の古御所めく。