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くにさだえがく
鏡花短篇集 川村二郎編
泉 鏡花
Read 鏡花短篇集 川村二郎編 (くにさだえがく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,644 characters · 40 screens
その蔭に、遠い灯のちらりとするのを背後にして、お納戸色の薄い衣で、ひたと板戸に身を寄せて、今出て行った祖母の背後影を、凝と見送る状に彳んだ婦がある。
一目見て、幼い織次はこの現世にない姿を見ながら、驚きもせず、しかし、とぼんとして小さく立った。
その小児に振向けた、真白な気高い顔が、雪のように、颯と消える、とキリキリキリ――と台所を六角に井桁で仕切った、内井戸の轆轤が鳴った。が、すぐに、かたりと小皿が響いた。
流の処に、浅葱の手絡が、時ならず、雲から射す、濃い月影のようにちらちらして、黒髪のおくれ毛がはらはらとかかる、鼻筋のすっと通った横顔が仄見えて、白い拭布がひらりと動いた。
「織坊。」
と父が呼んだ。
「あい。」
ばたばたと駈出して、その時まで同じ処に、画に描いたように静として動かなかった草色の半纏に搦附く。
「ああ、阿母のような返事をする。肖然だ、今の声が。」
と膝へ抱く。胸に附着き、
「台所に母様が。」
「ええ!」と父親が膝を立てた。
「祖母さんの手伝いして。」
親父は、そのまま緊乎と抱いて、
「織坊、本を買って、何を習う。」
「ああ、物理書を皆読むとね、母様のいる処が分るって、先生がそう言ったよ。