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くにさだえがく
鏡花短篇集 川村二郎編
泉 鏡花
Read 鏡花短篇集 川村二郎編 (くにさだえがく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,644 characters · 40 screens
だから、早く欲しかったの、台所にいるんだもの、もう買わなくとも可い。……おいでよ、父上。」
と手を引張ると、猶予いながら、とぼとぼと畳に空足を踏んで、板の間へ出た。
その跫音より、鼠の駈ける音が激しく、棕櫚の骨がばさりと覗いて、其処に、手絡の影もない。
織次はわっと泣出した。
父は立ちながら背を擦って、わなわな震えた。
雨の音が颯と高い。
「おお、冷え、本降、本降。」
と高調子で門を入ったのが、此処に差向ったこの、平吉の平さんであった。
傘をがさりと掛けて、提灯をふっと消す、と蝋燭の匂が立って、家中仏壇の薫がした。
「呀! 世話場だね、どうなすった、父さん。お祖母は、何処へ。」
で、父が一伍一什を話すと――
「立替えましょう、可惜ものを。七貫や八貫で手離すには当りゃせん。本屋じゃ幾干に買うか知れないけれど、差当り、その物理書というのを求めなさる、ね、それだけ此処にあれば可い訳だ、と先ず言った訳だ。先方の買直がぎりぎりの処なら買戻すとする。……高く買っていたら破談にするだ、ね。何しろ、ここは一ツ、私に立替えさしてお置きなさい。……そらそら、はじめたはじめた、お株が出たぜえ。