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くにさだえがく
鏡花短篇集 川村二郎編
泉 鏡花
Read 鏡花短篇集 川村二郎編 (くにさだえがく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,644 characters · 40 screens
わびしかるべき茎だちの浸しもの、わけぎのぬたも蒔絵の中。惣菜ものの蜆さえ、雛の御前に罷出れば、黒小袖、浅葱の襟。海のもの、山のもの。筍の膚も美少年。どれも、食ものという形でなく、菜の葉に留まれ蝶と斉しく、弥生の春のともだちに見える。……
袖形の押絵細工の箸さしから、銀の振出し、という華奢なもので、小鯛には骨が多い、柳鰈の御馳走を思出すと、ああ、酒と煙草は、さるにても極りが悪い。
其角句あり。――もどかしや雛に対して小盃。
あの白酒を、ちょっと唇につけた処は、乳の味がしはしないかと思う……ちょっとですよ。
――構わず注ぎねえ。
なんかで、がぶがぶ遣っちゃ話にならない。
金岡の萩の馬、飛騨の工匠の竜までもなく、電燈を消して、雪洞の影に見参らす雛の顔は、実際、唯瞻れば瞬きして、やがて打微笑む。人の悪い官女のじろりと横目で見るのがある。――壇の下に寝ていると、雛の話声が聞える、と小児の時に聞いたのを、私は今も疑いたくない。
で、家中が寝静まると、何処か一ケ所、小屏風が、鶴の羽に桃を敷いて、すッと廻ろうも知れぬ。……御睦ましさにつけても、壇に、余り人形の数の多いのは風情がなかろう。