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かいひいちようちょう
開扉一妖帖
泉 鏡花
Read 開扉一妖帖 (かいひいちようちょう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,898 characters · 40 screens
が、羽音はしないで、すぐその影に薄りと色が染まって、婦の裾になり、白い蝙蝠ほどの足袋が出て、踏んだ草履の緒が青い。
翼に藍鼠の縞がある。大柄なこの怪しい鳥は、円髷が黒かった。
目鼻立ちのばらりとした、額のやや広く、鼻の隆いのが、……段の上からと、廊下からと、二ヶ処の電燈のせいか、その怪しい影を、やっぱり諸翼のごとく、両方の壁に映しながら、ふらりと来て、朦朧と映ったが、近づくと、こっちの息だか婦の肌の香だか、芬とにおって酒臭い。
「酔ってますね、ほほほ。」
蓮葉に笑った、婦の方から。――これが挨拶らしい。が、私が酔っています、か、お前さんは酔ってるね、だか分らない。
「やあ。」
と、渡りに船の譬喩も恥かしい。水に縁の切れた糸瓜が、物干の如露へ伸上るように身を起して、
「――御連中ですか、お師匠……」
と言った。
薄手のお太鼓だけれども、今時珍らしい黒繻子豆絞りの帯が弛んで、一枚小袖もずるりとした、はだかった胸もとを、きちりと紫の結目で、西行法師――いや、大宅光国という背負方をして、樫であろう、手馴れて研ぎのかかった白木の細い……所作、稽古の棒をついている。