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ゆきぐにのはる
雪国の春
柳田 国男
Read 雪国の春 (ゆきぐにのはる) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,000 characters · 266 screens
所々に薄紫で形の菊ににた花が低く咲いている。土地ではアブラコ菊というと後になって聞いているが、関西で吾妻菊、東国で蝦夷菊というものと色も形もほぼ同じで、あれよりもはるかに姿が弱々しく、地を去ることわずかに二、三寸、青い空をまぶしがり、海の音に聞き入るような花であった。
港の前面はただ一列の砂の堤であった。白い濤が絶えずこれを越えている。その内側に太い綱を張り、これによって辛うじて渡船を通わせている。荒い西北が一日半夜も吹き続けると、水戸口の砂はたちまち山になって、潟の内側は水かさを増し、岩木川の落ち口から、左右一帯の新田場は水の底になるので、多くの人夫が危険を冒して、何でもかでもこの砂山を切りにこなければならぬ。それを見張りの番小屋が北の岸にはあって、電話を引き信号の旗を具えてある。青森から来ている若い技手はこの日留守であって、その弟が一人で本を読んでいた。黒い小猫を飼っている。
小屋の片隅の石垣の下には、二尺三尺の流れ木が拾い集めて岡のごとく積んである。それを見るとすぐに『東遊記』などの雁風呂の話が想い出される。どの辺の海辺から漂うてきたものか、これも近世の随筆にはよく書いてあるが、いわゆる蛾眉山下の橋柱だの、天下地上の大将軍の粗彫の木像などは、いずれも咸鏡道あたりの低地から出たものらしく、何度となく