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ゆきぐにのはる
雪国の春
柳田 国男
Read 雪国の春 (ゆきぐにのはる) by 柳田 国男 (やなぎたくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,000 characters · 266 screens
しかしとにかくに鹿のおりそうな山である。おっても差支えのないような林の色をしている。それが今日では「鹿捕えるべからず」の制札ばかり、村はずれの路傍に白々と立っていて、もう何人からも鹿の話などは聞くことができなくなっている。
鉄砲流行のためばかりでもないようである。明治の文化は徹底して彼らの敵であった。二、三の遊覧地においては鹿を珍しき見物とせんがために、あらゆる手段を講じてその明治化を防いだかの観がある。現に東京四周の平原の、今筆者の居住する黒土の高台あたりも、ごく近いころまで有名な鹿生息地の一つであったが、誰がきて捕ったという人もなしに、今では甲州境の山にさえ少なくなった。
食ったり皮を着たりするだけの事なら、昔の人の方が今よりも盛んにやっていた。つまりは今日は人が公園地以外にあって、鹿というものに親しみを持たなくなったために、鹿の方でも生存の興味、または張合いともいうべきものが、なくなった結果ではあるまいかと思う。そう考えてもよいような話は多いのである。
人がこの五十年の間に二倍になったとは言っても、まだまだこの辺の海と山との間には、静かな林や草原が多い。