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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,712 characters · 29 screens

Aozora Bunko

……そうとわかったら、馬鹿馬鹿しくって、もう一時だってこんなところにいられやしない」

ブリブリ言いながら、檐へかけた梯子をつたってドンドン庭のほうへおりて行く。

顎十郎は、ひょろ松のうしろについて、ノソノソと玄関の踏石へおりながら、切妻板のむこうの壁の凹所のほうを眺めていたが、なにを見たのか、とつぜん、

「おや」

と、おしつけたような低い叫び声をあげた。

「おい、ひょろ松、ここに変ったものがある。……あそこを見ろ」

ひょろ松が、指さされたところを見ると、黒漆塗の札に『春鶯句会』と胡粉で書いてあって、その左に、仁科伊吾を筆頭にして、六人の席札がずらりと掛けつらねられてある。

ここまでは、かくべつ不思議はないが、六枚の席札のうち、誰のしわざか、佐原屋と佐倉屋と和泉屋の名を筆太にグイと胡粉で抹殺してある。

ひょろ松は、合点のゆかぬ顔で、

「これは句会の名札ですが、これが……どうしたというんです」

「お前にはこの凄味がわからねえか。……おい、ひょろ松、今日は、いったい、どっちの通夜なんだ」

「蠣殻町の、佐原屋のほうです」

「すると、五人組の連中は、当然、蠣殻町に集っているわけだな」