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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,604 characters · 28 screens

Aozora Bunko

「白酒で酔うようなおひとなら、たのもしいけれど……」

花世は、気がついて、

「おや、お琴さん、いい帯が出来ましたね、長崎屋ですか」

「ハイ、そうですよ、……綾織のいいのがありましたから帯にとりました」

といって、顎十郎に盃をさしつけ、

「さア、おあがり……かたきうちですよ」

顎十郎は、顎をなでながら、ほほ、と笑って、

「お琴さん、俺を酔わすと口説くかもしれねえぜ」

「ハイ、口説くなり、どうなとしてくださいまし。……ここでなら、こわいことなんぞ、ありませんよ」

「本当に、口説いてもいいかの」

「さあ、どうぞ」

「じゃあ、その帯を解いてください」

あどけなく、スラリと立って、帯をとき、

「はい、解きましたよ……あなたに、わちきが口説けますものか」

顎十郎は、お琴の帯を手繰りよせてその端をてらして眺めていたが、とつぜん、

「おい、ひょろ松、……花世さん、ここにも、都鳥が!」

と、いった。

比久尼

次の日の朝、いつものように部屋借の二階で寝ころがっていると、階下の塀の外で、おいおい、と権柄に呼ぶものがある。

顎十郎が窓から首を出して見ると、叔父の庄兵衛が、赤銅色の禿頭から湯気を立てながら往来に突っ立っている。