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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,674 characters · 36 screens
「これは、ご無体!」
「無体とは、こちらの申すことだ、マゴマゴしないで、早く帰れ」
浪人者は地面にかがんで、もそもそと丼のかけらを拾いあつめていたが、なにを思ったか、スックリと立ちあがると、手に持った丼のかけらを力まかせに地面にたたきつけ、
「……よし、どうでもくれぬというなら、取るようにして取って見せる。……まだ、水道橋へはかかるまい。……これから追いかけて……」
眼に血をそそぎ、すさまじい形相で壱岐殿坂のほうを見こむと、草履をぬいで跣足になり、髪ふりみだして阿修羅のように走りだした。
桃葉湯
本郷三丁目の『有馬の湯』。
六月三日が、土用の丑の日。この日、桃の葉でたてた風呂へ入ると、暑気をはらい、汗疹をとめるといって、江戸じゅうの銭湯で桃葉湯をたてる。
れいによって、番所をなまけ、手拭いを肩にひっかけて汗をながしに行く。
ちょうど七ツさがり、暑いさかりで、浴客はほんの二三人。
小桶を枕にして、流し場に長くなっているのは、いつも間のびのした歯ぬけ謡をうなる裏の隠居。顔は見えないが、湯壺のなかで粋な声で源太節を唄っているのがひとり。
顎十郎が、小杓子でかかり湯をつかっていると、唄がやんで、柘榴口からまっ赤になって這いだして来たのは、加賀さまのお陸尺で、顔なじみの寅吉という剽軽なやつ。