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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,327 characters · 43 screens
一段高くなったところに、年寄の座があって、老眼鏡をかけた、松助の堀部弥兵衛のようなのが褥をなおす。
「お役目、ご苦労」
顎十郎、すました顔で、おほん、と咳ばらいで受けて、
「さっそくですが、三万二千両……御用金が差しおくりになることは、よほど以前からわかっていたのですか」
年寄役は慇懃にうなずいて、
「さようでございます。……これは節季の御用で、毎年のきまりでございますから、金座では、九月のすえから用意をいたしておきます。……しかし、差しおくりになる日は、勘定所のほうから、いつ何時、と、お触れがある定めになっております」
「なるほど……差しおくりの日がきまったのは、何日のことですか」
「七日の夜。……あの騒ぎのございました前日の、夜の五ツ頃(八時)、御用金は、八日朝の辰の刻(八時)までに川便でおくれという触がとどきました」
「すると、差立ての日は、その前日までわからなかったのですな」
「さようでございます」
「御用金が、金座の門を出たのは何刻ごろで?」
「ちょうど、六ツ(六時)でございました」
「勘定所の触役がきたのが前の晩の五ツで、御用金が金座をでたのが次の朝の六ツ。