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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,028 characters · 30 screens
毎度のことだが、今日はまたいつもよりよっぽど風むきが悪い。噛みつくような口調で、
「つまり、よしてえというんだろう。厭になったというんだろう」
「えへへ、そういうわけでもないんですが……」
「家老の石口十兵衛のほうじゃ、顎十郎のところへ駈けこんだことがわかってる。古河の十二万五千石がどうなろうと、俺にゃ痛くも痒くもねえが、こんなふうに鍔ぜりあいになった以上、どうして後へひけるものか。寄場はおろか、橋の下、お堂の下をはいくぐっても、その小童をさがしだし、あいつに鼻をあかしてやらなけりゃアおさまらねえのだ」
「へい、ごもっとも」
藤波は険悪にキッと唇のはしを引きしめ、
「ごもっとも。なにがごもっとも。……なア千太、あの顎化けが、けさ俺のところへ送りつけてよこした手紙を、貴様も読まなかったわけじゃなかろう。……あなたのなさっていることは、まるっきりの見当ちがい、いかにもお気の毒に存ずるから、ちょっと御注意もうしあげる。……なにをいやあがる。あしらっておきゃあ好い気になりゃあがって、自分天狗の増上慢。放っておいたら、どこまでつけあがるか知れやしねえ、こんどこそはギュッという目にあわせて、申しわけがございませんの百辺も言わしてやるつもりなんだ。