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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,028 characters · 30 screens
なあにおっしゃられなくともわかっています。……うかがうところどうやら下総なまり。それに名札の紙が、古河で出来る粘土のはいった間似合紙ということになると、あらためて武鑑をひっくりかえすまでのことはない。……下総の古河で実高十二万五千石。雁の間伺候……」
はッ、と見ぐるしいほどに顔色を変えるのに目もくれず、
「いわずと知れた、土井大炊頭さまの御家中、なんてことはどうでもいい。いかにも御主家の名はうけたまわりますまい。おっしゃってくださらなくても結構。……それはともかく、下総の古河といえば、江戸の東のかため、そこのお国家老ということになれば、なにかと御用多なこッてしょう。いや、お察しいたします」
客はむやみに手をふって、
「滅相もない。手前は決して……」
「などとあわてられることはない。間違いなら、間違いでもよろしい。ただいまも申しあげましたように、そのへんのことはちゃあんと図星。いや、ちゃんと呑みこんでおります。あなたが土井さまのお家老だなんてことは、手前はなにも知らない。いわんや、岩田というのは偽名で、実は石口十兵衛といわれるなんてことも、まるっきり知っちゃあいない」