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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
暗黙のうちに、ふたりの心がうなずきあった。
新吉は合鍵を探して、そのつづらの一個へ手をかけた。
「お家様! お家様」
その時、あわただしい足音をさせて、小間使が知らせてきた。
その小女は、阿波の家中が見えた時は早く奥へ知らせるように、と前からお久良に言いふくめられていたので、
「あの、今ここへ、竹屋三位卿というお方に、森様という御家中が通っておいでになります」
と、おどおどした声でいった。
「えっ、三位卿様が?」
ふたりは、自分が離した合鍵の音にギョッとした。
白い光の紋流は五の目みだれに美しく沸えあがって、深みのある鉄色の烈しさと、無銘ではあるが刃際の匂いが、幾多の血にも飽くまいかと眺められる。
はばきから鋩子まで、目づもり三尺ばかりな関の業刀。
それが、灯明の前に横たわっている。
藍のような刀身からチカッと一波の光もよじれぬほど、静かに、それを持ちこたえているのは法月弦之丞であって、その切ッ尖と行燈の向うに、息づまったように坐っているのは川長のお米であった。
ここは、京橋口の船宿、鯉屋の二階。
少し風が強くなってきたのか、或いは、さしも夜更けてきたせいか、ドボリ、ドボリ、という川波の音が灯皿の細い焔を揺するかに聞えてくる。