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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
だが――颯光はそれた。引くも遅し! 横一文字に相手の剣! あッと思いつつ、のめり込んで、その刃を抱いてしまった。
「うう――ッ……」
と一方が横倒れになるとたんに、目を閉って、組みついていた腕だすきも、ハッとふりほどかれて、侍の肩を越した。
そしてその体が地につかぬうちに、腕の付根から肋骨へかけて、ザッと、あまりにすごい二の太刀がかかる……。
目にもくれず編笠の影は、刃の血をビューッと振って、
「ああ、子供たちの身も気がかりな……それに、阿波の手配りも思いのほか厳しい様子、この分ではさすがの彼も」
と、面を星にふりあげていると、足もとから不意に、断続した呼子笛の音が水のように鳴った。
斬り伏せられた傷負のひとりが、断末苦の必死に、あえぎながらくわえた呼子笛……。
その絶えだえな音がかすれ消えると一緒に、八方から集まった原士の影は、仲間の死骸をとり巻いて、無念そうに、不思議な編笠の出没にじらされ、かつ錯覚を起こし、じだんだを踏んで口惜しがった。
「奇怪な編笠、何者だろうか」
「無論、幕府方の奴に違いない。今夜の騒ぎにまぎれて、やはり御本国へでも入り込もうとして来たのだろう」