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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「旅立ちは急くもんじゃねえ。まだ煙草ぐらい吸う間はゆっくりありますぜ」
と宅助は、ムリにお米を船待小屋へ連れこんだ。
「お誂えだ、ちゃンと蓆が敷いてある」
合羽の裾をまくッて、
「どッこいしょ――」と腰をすえる。
お米もひとつ蓆に並んで、紅緒のついた両足を前へ投げだした。
ちょうど、いい按配によりかかる物があった。
宅助もよりかかって、後ろの物を枕にしながら――
「お米……一昨日の今ごろはよかったなあ」と、いやらしい思いだし笑いを浮かべる。「一昨日って? ……」
「松島の水茶屋サ、あそこの奥の四畳半サ。忘れちまうなア薄情だな」
「忘れやしないけれど、まじめくさって不意にそんなことをいうからさ」
「だが約束を違えずに今夜ここへ来た心意気は買っとくぜ」
「私の気性は一本気なンだよ」
「どう一本気なのか、聞きてエものだが」
「こうと思う男にぶつかるとネ……その気性がよくないと知りながら」
「ヘ、ヘ、ヘ。ほンとけえ?」
「さあ、お前にはどうだか」
「あれ」
「憎いねエ、知りぬいているくせに」
「あ痛……」
「来たよ、お離し」
「え」
「人がさ……」と身をねじると、そこへ誰かの影が立って、小屋の内を覗きこみ、