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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
ではお米、くれぐれもそのつもりで、さびしかろうが徳島まで一日ひと晩の辛抱じゃ……」
啓之助は落ちつきのない様子で、それだけいうと、スタスタと三位卿のいるほうへ大股に立ち去った。
その後ろ姿を見送って、
「うふッ……」と、宅助、口を押さえて吹きだしたものである。「もったいねえくれいお人好しだなア」――と。
「お米」
と、そこでまた、色男へ立ち返った気で、以前の所へドッカリ腰をすえなおした。
「小屋の中が暗かったからいいようなものの、不意に、コレ宅助と来やがったんで、すっかり面食らってしまった」
「でも気がつかなかったから倖せさ」
「付かれて堪ったもンじゃねえ」
「やっぱり悪いことはできないものかね」
「河豚の味と間男の味、その怖いのがよろしいので……」
と、いい気持で、後ろへ体をよっかけてゆくと、ズルズルと襟元へ蓆が辷り落ちてくる。
「エエ、塵が入った……」と背中へ手を突っこみながらふりかえってみると、蓆をかぶせた四角い荷物。
「つづらだナ」
といったが、宅助、別に気にも止めなかった。
ちょうど、凭れぐあいがいいのに任せて、そのつづらによッかかりながら、
「ええ、お米さん」