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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「夏知らずというところさ、あっしゃあ、昨日もここでウットリとしてしまった」
「昨日?」
と、眼八は、すぐに揚足をとって、
「きのうは浜へ仕事に行ったと言いなすったが」
「なに、ちょっとこの辺へ使いがあってね」
「一昨日はたしか徳島にいなすった」
「エエ、親方の代りに、新造船の絵図をとりに行って、帰りに、御城下を少しブラついてきた」と、源次もそこで鑿をなくしたという事実があるので、これだけは隠されなかった。
よウし! この辺からソロソロ締木を責めてやろうか。
眼八はそう思いながら、
「源さん、まア掛けねえな」と、煙管の先で、杉の木の根あがりを指した。
「御輿をすえると、眠くなるからなあ」
「眠くならねエようにしてやるから、とにかく、そこへ落ちつきねえ」
「いやだぜ、悪い喉なんかを聞かせちゃ」
「いいやな、お前、ここは四国二十三番の札所だ、御詠歌ぐらいはおつとめしなくっちゃ、霊地へ対して申しわけがない。そこでぼつぼつ始めるが……オイ、源次ッ」
と、肩を突ッ張って、にわかに鋭くなった。
「なんだ、旅人」
と源次はあッ気にとられた顔をした。
「お前は何か、先刻おれが返してやった平鑿を、徳島のどこでなくしたか気がついているか?」