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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
だのに孫兵衛、そちは邪悪の権化のように、一生悪事はやめられぬと答えた」
「当りめえだ、死んでゆくお袋に嘘がいえるか」
「それはいい、悪党の率直もいいが」
「チッ!」と、舌打ちして「おふくろの幽霊みたいに、おれにいったい何を説こうっていうんだ」
「十夜頭巾――」
と、世阿弥は暗黒の中で笑った。
「頭巾の悩みとでも申そうか」
孫兵衛は口をつぐんだ。
暗闇の中の二ツの目はジイと白く真向きにすわったまま、
「――お前が改心はできぬといいきると、お前の母、死にきれぬ悶えを見せ、サメザメと泣いて、孫兵衛よと呼んだ。孫兵衛よとまた呼んだ。お前は立たない、あの時の女親は怖かったのであろう、で、病人は三度目に、お祖父様、どうぞ、孫兵衛をこれへ、と側にいる老人へ眼で哀願した。名は知らぬが白髯の老武士、あとで聞けば、川島郷の原士の長で、ひとたび、その老人に、あいつと杖を向けられた者は、たとえ、どう他国へ逃げ隠れしても、必ず手を廻して殺されるという、怖ろしい支権者であるそうな」
高木龍耳軒のことをいうのだなと孫兵衛には分った。
それや龍耳老人は怖ろしいにきまっている。原士の長はあの人だから治まっているといわれているくらいなものだ。