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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
「じゃ、見せてくれてもいいではないか」
「それ程、大したものじゃねえというのに、お前もばかにアレを気にしているな」
「それや、拙者にしたって気になるよ。あの洞窟から天堂がつかみだした物は、当然、甲賀世阿弥が何か書き止めておいた重要な遺書に違いないからの……」と、周馬の眼ざしが額ごしに、杯を含んでいる対手へ光った。
「ふン……」と、孫兵衛は薄笑いを含んでいたが、
「じゃ話すが、実は、あれや何の値打もねえものだぜ」
「なぜ?」と、周馬は、思わず鋭くなった自身に気がついて、食慾のない箸の先にわざと小皿の料理を突ッついていた。
「――見たところ、血で書いたような文字が、小法帖の鳴門水図のあきへべた一面に書いてあったが、てんで、読みようのない文言、何が何の意味やら分らねえんだ」
「なるほど、それはそうあるはず。隠密組には、甲賀派、伊賀派、おのおの別な暗語、隠語ができている。世阿弥のものも、おそらくその隠文で綴ってあるに違いない」
「そうか、そりゃ俺も初めて知った」
「だから物は何事も打明けてみるものだよ。して、その一帖は、今も貴公がそこに持っているのか」
「なアに。三位卿をへて太守のお手元へ差し出してしまった」