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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
周馬が秘帖を盗み去った後へ、あの虚無僧がここへ入り、同じ花瓶に目をつけて、手紙を読みかけているところへ、自分が帰ってきたものと判断すれば、一応前後のつじつまが合うように考えられるが、その虚無僧ふたりが、そも何者で? なんの目途? すべて孫兵衛には見当がつかない。
しかし、今はそれを考えて、前後の処置をとっている落ちつきも時間もなかった。
何はともかく、本土に近い海路の咽喉岡崎の港――撫養街道を駆けぬけて周馬を追い越し、そこできゃつを引っ捕えなければならぬ。
うまうまと永い間、こっちのふところへ飛び込んでいて、あくまで一角や自分へ加担をするとみせかけ、最後のどたん場へ来て、仮面をぬぐやいな、秘帖をさらって逃げたニキビ侍! きゃつを捕えて思いしるほど懲らしめてくれねば、お十夜の腹の虫がおさまらない。
きゃつを油断のならない人物とは、疾くから思わぬのでなかったが、永い道中をともにし、苦艱にも本心をみせず、常に冗談や軽口を言いあうにつれて、
「あいつも、うわべは悪人であるが、真に愛すべきところがあるよ!」
などと、一角がいうので自分までが、いつか周馬を皮相に見、かれの道化の所作を信じたことが不覚だった。