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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
浦から浦へそれを伝える太鼓、いんいんと水にひびいてものすごい。
が――その前後に明らさまに手形を示し、鳴門村へ越えたふたりの虚無僧を何人も疑わなかった。かれは明け方に鳴門の渦潮を見物する者と称して、土佐泊へ上陸ったが、そこから忽然と影をかくしていた。
やがて……。
疲れたように警鼓の音もやみ、捕手の灯の数も減るともなく気抜けして、別な方角へ散ってしまった頃。
紀貫之の歌碑がある潮明寺の床下からソロリ……と這いだして、目を光らせ、かがみ腰に、あたりをうかがっている人間がある。
旅川周馬だった。
周馬は、大丈夫――と見る、ソッと立って、貫之堂の端に腰をおろして、足拵えをなおしにかかった。
ポト! と冷やッこい雫が襟もとへ落ちてくる。
びっくりしたように首すじを撫でて上を仰ぐと、松の枝が堂の屋根にかぶさっている。しかし、それを揺するものは静かな潮風。
「ある……ふン……」
周馬はニンマリと笑って、内ぶところへ両手を突っこみ、品物を確かめながらその触覚を楽しんでいるふうだ。
お綱から一角が奪い、一角の死骸からお十夜がかすめ取った世阿弥の秘帖は、とうとう思うつぼに、自分のふところへ転げこんで納まっている。