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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
で――周馬は怖れ気もなく、木の葉みたいな若布舟を、渦まく海潮へ漕ぎ入れた。
「ざまア見ろ!」
かれは絶壁を仰いで渦の中から嘲笑した。
「あははははッ……もう追ッつくめえ。斬りあえ! 斬り合え! そこで弦之丞とお十夜と、お綱と三位卿とで、双方傷だらけになるまで斬りあっていろ。ばかめッ。そのまにおれは本土へ帰るよ。じゃア阿波の国! おさらばだぜ!」
浪にゆられながら、快を叫んでいたが、旅川周馬、まだよろこぶのは少し早かった。
海蛇のごとき一本の捕縄が、突! あるまじき渦潮の中からおどりだして、櫓をつかんでいる周馬の首へピューッ、水を切って巻きついた。
「あっッ――」
縄をつかむとその力で、舟はグルグル潮に巻かれた。そして飛島の岩の蔭からも、それに曳かれてまた一艘渦に誘われて廻ってくる。
舟と舟をつなぐ不思議な捕縄!
それは渦に巻かれ込みながら、両方の危険を助けあっていた。――しかし、周馬にとってはまったく不意な敵である。致命な縄だ。
「えいッ、畜生」
片手に巻き込んだ捕縄を、いきなり前差で切って払った。
ぶつッと縄が切れてはねる! とたんに周馬その者は、剣光を空にひらめかし、ドンと舟底へもんどりを打つ。