Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens

Aozora Bunko

「あぶない……」

と、手をのばした弦之丞の胸へ、お綱はよろけ込むように抱かさった。

苫をかぶった過書舟は、気永に、猫間川の淵を上って行った。

秋ならば、さだめし、虫聴きの風流子が、訪れそうな所である。上へすすむほど、川幅も狭くなって、岸の両側から青芒や千種の穂が垂れ、万吉の棹にあやつられる舟の影が、薄暮の空を映した滑らかな川面を、水馬のように辷ってゆく。

苫の隙間から、白い煙が、静かに揚がっていた。

小さなこんろや土鍋が見える。

お綱の白い手が、舟べりから水へ伸びて、二つ三つの瀬戸物を洗っていた。

ささやかな舟世帯で、夕餉の支度ができるらしい。

かかる間に、舟は玉造村からズッと奥へ入って、とある土橋の橋杭へ結びつく。

その頃、もうトップリと日が暮れて、猫の眸に似た二日月が、水の深所に澄んでいた。

「じゃ、弦之丞様、今夜はちょっとお暇をいただいて、家の様子を見たり、また、当座の食い物を少し仕入れてまいりますから――」

舟をもやうと万吉は、こういいながら、陸へ上がる支度をしていた。

「お、行くのか――」と苫の中から弦之丞。

「わっしが帰るまで、どうぞ、ここを動かないように」