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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 261,216 characters · 521 screens
得て、お上の者という面へ、よい程な扱いをして見せると、ツケ上がりたがるものなので、ひとまずさかねじをくれてゆくと、
「こいつ、ひと筋縄ではゆかない奴だ」
と、舌打ちを鳴らした奉行同心、
「面倒くさい、現場は見届けたのだから、構わずにショッぴいてゆけ」
目配せをして、自分は先に、ヒラリと陸へ身を交わすと、残された配下の者が、いちどにかぶって、弦之丞とお綱の手をねじあげ――、
「とにかく立てッ!」と、ののしった。
「どこへ?」
腹立たしげに反問すると、
「知れたこッた、東奉行所までまいれというのだ」
「不思議なことを申される。なんで拙者が、東奉行所へ行かねばならぬか」
「四の五の申すな、立て立て」
「イヤ、立たぬ」
「なにッ」
険しい目が、いちどに爛として弦之丞の身に集まる。
「すなおにせぬと、貴様の不為になるばかりだぞ。現場を見られた以上は、言いのがれはなるまい。また、いうことがあるなら、奉行所へ来てほざけ」
「いよいよ心得ぬことを。現場とは何を指していうのか、とんとこのほうには思い寄りがない」
「エエ、太々しく白を切る浪人だ。女はあのように怖れ入っているのに、思い寄りがないとは、人をばかにした奴」