Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

がこせんにん

鵞湖仙人

国枝 史郎

Read 鵞湖仙人 (がこせんにん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,555 characters · 22 screens

Aozora Bunko

一

時は春、梅の盛り、所は信州諏訪湖畔。

そこに一軒の掛茶屋があった。

ヌッと這入って来た武士がある。野袴に深編笠、金銀こしらえの立派な大小、グイと鉄扇を握っている、足の配り、体のこなし、将しく武道では入神者。

「よい天気だな、茶を所望する」

トンと腰を置台へかけた。物やわらかい声の中に、凛として犯しがたい所がある。万事物腰鷹揚である。立派な身分に相違ない。大旗本の遊山旅、そんなようなところがある。

「へい、これはいらっしゃいまし」

茶店の婆さんは頭を下げた。で、恭しく渋茶を出した。

ゆっくりと取り上げて笠の中、しずかに喉をうるおしたが、その手の白さ、滑らかさ、婦人の繊手さながらである。

茶を呑み乍ら其の侍、湖水の景色を眺めるらしい。

周囲四里とは現代のこと、慶安年間の諏訪の湖水は、もっと広かったに違いない。

信濃なる衣ヶ崎に来てみれば

富士の上漕ぐあまの釣船

西行法師の歌だというが、決して決してそんな事は無い。歌聖西行法師たるもの、こんなつまらない類型的の歌を、なんで臆面も無く読むものか。

が、併し、衣ヶ崎は諏訪湖中での絶景である。富士が逆さにうつるのである。