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よみから
黄泉から
久生 十蘭
Read 黄泉から (よみから) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,167 characters · 21 screens
みなテーブルに頬杖をつき、悲しげな眼ざしを糸杉の小径のほうへそよがせる。どの顔も死というものの意味を知り、それを悼むことの出来る深い顔つきばかりで、こういう国ならば死ぬこともたのしいかなと、感慨にしずんだことがあった。
「これはどうもいけなかったな」
とつぶやいて、光太郎は汗をふいた。
光太郎の一族はふしぎなほどつぎつぎと死につぎ、肉親というのはおけいひとりだけになってしまったが、それが婦人軍属になってニューギニアへ行き、カイマナというところで死んだときいたときもかくべつなんの衝動もうけず、きょうルダンさんに逢うまではほとんど思いだしたことさえなかったのである。
光太郎は事務所へ行くと、きょうの約束をみな電話で断ってしまった。明日からまた卑俗な世渡りにあくせく追いたてられるのであろうが、せめてきょう一日だけは全部の時間をおけいの追憶についやそうと思った。
光太郎の家は下町にあったので、祖母が生きているころまでは、お盆のまつりはなかなか派手なものだった。真菰の畳を敷いてませ垣をつくり、小笹の藪には小さな瓢箪と酸漿がかかっていた。巻葉を添えた蓮の蕾。葛餅に砧巻。