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くろだじょすい
黒田如水
吉川 英治
Read 黒田如水 (くろだじょすい) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 163,639 characters · 325 screens
――むかし、漢土にもこういう話があった」
ふたたび床几へもどりながら、彼は左右の扈従へも眼をくれて語った。
「魏の曹操のことだが。――かつて曹操が麦畝を行軍中、百姓を憐れんで、麦を害すものは斬らんと、法令を出した。ところが曹操自身の馬が飛んで麦田を荒らしたのだ。すると曹操は、自ら法を出して、自ら之を犯す、何を以て、兵を帥きいんやと、自分の髪を切って地に置いたという。……重治、これはいつか其方から聞いた話だったな」
「左様でありましたか」
「信長も髪を切って地に置かねばならん。――予は漢土の風習に倣うものではないが、気持としては、それほど自らを責めておる。重治は直ちに中国へ行って、秀吉を扶けよ。官兵衛は、これから近い有馬の湯へ行って、当分、療養いたすがよい」
信長はまた、
「於松。これへ来い」
と床几の下へ呼びよせて、
「よい子だの」と、その頭をなでながら、
「あれほどな父を持ち、これほどな恩師を持ち、そちはよほど倖せ者だ。さだめし行末よい武勲を持つだろう。重治に従いて中国へ征け。信長がその初陣を祝うてとらせる」
と、自身の脇差を取って、松千代の両手に授けた。