Japanische Klassiker mit Furigana
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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
Lesen Sie ちくしょう谷 (ちくしょうだに) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 69.788 Zeichen · 138 Bildschirme
隼人はそっちへ歩いていった。長屋とは反対側に当る、役所の建物の北側を、裏のほうへまわってゆくと、藁小屋の外に人影が見えた。その小屋は倉の脇にあり、繩や蓆や綱などが置いてある。人影は一つに見えたが、それは青白い月光の中で抱きあっており、男と女であることが隼人の眼にわかったとき、二人は抱きあったまま、藁小屋の中へはいっていった。――隼人は静かに近よっていった。小屋の中から、女の含み笑いが聞え、それがひそめた叫び声になり、男の太い喉声がなにか云った。隼人は小屋の戸口の脇に立った。
「おれは朝田隼人だ」と彼は低い声で呼びかけた、「聞えるか」
小屋の中がしんとなった。
「私はどちらの顔も見ていない」と彼はまた云った、「もちろん誰であるかわからないし、知りたいとも思わない、だが、今後こういうことは固く禁ずる、――二人とも出てゆけ、私はおまえたちを見ない」
隼人は空を見あげた。
小屋の中で物音がし、すぐに人が出て来た。草履をはいているのだろう、足音はしなかったが、荒い呼吸が聞え、それがすばやく、長屋のほうへ去っていった。月を見あげている隼人の顔に、やがて悔恨のような表情がうかび、その眼にはいつものあの、親のない嬰児を見るような、温かく深い色が湛えられた。