Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みっつのひふん

三つの悲憤

豊島 与志雄

Lesen Sie 三つの悲憤 (みっつのひふん) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.748 Zeichen · 18 Bildschirme

Aozora Bunko

万事窮した、面目もすべてつぶれた、と彼は思いました。

その午後、彼は黒い絹の晴着をつけ、片足によごれた沓をはき、片足ははだしのまま、街に出て、百貨店に行き、上等の沓を買ってはきました。そして六階の塔の上にのぼりました。

塔の上から眺めると、都会の煤け黒ずんだ屋根並が、いろいろな勾配をなして、無心にごたごたと並んでいます。狭い深い街路には、蟻のような人通りです。

そうだ、ここから……と彼は何かに促されたようで、ぞっとしました。眼の下の深いところへと、強い力が渦巻きこんで、その中に自分も巻きこまれる気持でした。

その、巻きこまれる前に、彼はふと眼をあげて、うつろな瞳を空に向けました。鳥が一羽、宙に浮いていました。その映像が次第に生きてきて、力強い悠長な鳶となり、鳶は空高く、両の翼を張って、大きな圏を描いて舞っています。

彼の瞳は鳶に囚えられました。囚えられながら輝いてきました。身内からあらゆる悲しみという悲しみがわき出し、それが大きな憤りと変ってきました。自分自身に対する、また世の中に対する、大きな憤りでした。

彼の全身は震えおののいて、そこに屈みこんでしまいました。