Japanische Klassiker mit Furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lesen Sie 二つの途 (ふたつのみち) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.102 Zeichen · 104 Bildschirme
僕がもし死んだら……。」
「君は何を云うんだ。大丈夫だ。これ位の病気に死にはしない。」
「僕は死なないかも知れない。然し或は死ぬかも知れない。その場合の用意もしておかなくてはいけない。万一の場合にあわてたくない。信子を保護してくれ。」
「岡部!」と木下は叫んだ。「信子さんのことは僕が引受ける。だから静かにしてくれ、静かに。君は今が一番大事な時だ。」
啓介は其処に身を起そうとしていた。木下が引止める手を払って、厳然と頭を振った。断平たる決意の色が、不可抗の力が、その顔に現われていた。彼の云うままに任せるの外はなかった。木下と信子とは彼の両腕を支えてやった。彼は上半身を起して、深い息をついた。激しい咳が襲ってきた。信子は彼の背中を撫でてやった。痰吐を取ってやった。吸飲の水で含嗽をさした。木下は彼の腕を捉えながら、頭を垂れていた。
「岡部、僕も君に云うことがある。僕は……。」
「木下さん!」と云って信子は彼の手に取り縋った。
「僕は、」と木下は続けた。「信子さんを愛している。」
「君達は互に愛するがいい。」と啓介は云った。「頼む。それで僕は、安心して死なれる。安心して生き……られる。