Japanische Klassiker mit Furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lesen Sie 二つの途 (ふたつのみち) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.102 Zeichen · 104 Bildschirme
四
四
木下は画室の粗末な古椅子に腰掛け、両腕を組んで、描きかけの自分の絵を眺めた。樫の幹や叢は、幾度も絵具を塗り返されて、浮彫の下彫のように浮出していたが、作意は少しも現われていなかった。枯死そのものを表現すべき色彩の下から、一種の明るい気分が浮き上っていた。遠景の空は、一色の黝ずんだ灰色に手荒く塗りつぶされて、処々にカンヴァスの布目が覗き出していた。其処から糊塗しきれない空虚の感が、画面全体に漂っていた。何時までたっても出来上りそうに思えなかった。木下は長い髪の毛をかき上げるようにして、片手で頭を押えじっと画面を見入った。
やがて彼は立ち上って、壁に懸ってる自分の作を一々見て歩いた。室の中は薄暗かった。彼は顧みて、暮れなやんでいる明るみの中の細かい雨脚を、窓から透し見た。それからまた樫の絵の前に戻ってきて、椅子に腰を落しながら、首垂れて考え込んだ。
その時、信子がそっと扉を開いてはいって来た。彼女は、振り向いた木下に我知らず微笑みかけた笑顔をそのままにして、尋ねた。
「お邪魔ではなくって?」
「いいえ、ちっとも。」と木下は答えた。
信子は真直に窓の所へ行った。