Japanische Klassiker mit Furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Lesen Sie 二つの途 (ふたつのみち) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.102 Zeichen · 104 Bildschirme
十三
」
それきり二人はまた黙り込んだ。
信子は堪らなくなって室から出て行った。
暫くすると、木下は云った。
「君はまるで夢中だったね。」
「いやよく知ってる。」
「何もかも?」
「うむ、頓服をのむ以前のことは。」
「そうかなあ……。」
木下は皮肉な笑いを一寸口辺に漂わしたが、平然たる啓介の顔を見て、口を噤んでしまった。然し執拗にいつまでも病室に残っていた。
十三
信子はまた幻を見るようになった。後ろから蔽い被さってくる過去の暗い影ではなくて、前方を遮る冷たい鉄の扉の幻影であった。彼女は、啓介の病気が全快するかも知れないのをひたと胸に感じた。彼が大きい打撃から脱して平穏な状態に復したことは、やがて停滞した容態に打ち勝って、回復の曙光を暗示するものであった。その回復の曙光が、木下の方へぬけ出んとする彼女の行手を遮った。また木下の姿が、啓介の回復を通じて未来へぬけ出んとする彼女の行手を遮った。何れへ向っても、堅い鉄の扉が前方を塞いでいた。迂路を取ることの出来ない直線的な彼女は、眼をつぶってその扉にぶっつかっていった。冷い戦慄が全身に流れた。現在の直接印象に強く支配せらるる彼女は、前後を通観する批判の眼を持たなかった。