Japanische Klassiker mit Furigana
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ひみつ
刺青・秘密
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme
女の眼は偏に三味線の糸の上に落ちているようである。恐らく彼女は、自分の奏でている音楽を、一心に聞き惚れているのでもあろう。
私は一歩前に蹈み出して、横顔だけしか見えなかった女の顔を、今度は正面からまともに覗き込んだ。顔は暗い編笠の蔭になっているのだけれど、それだけに一層色の白さが際だって感ぜられる。蔭は彼女の下唇のあたりまでを蔽っていて、笠の緒の喰い入っている頤の先だけが、纔かにちょんびりと月の光に曝されている。その頤は花びらのように小さく愛らしい。そうして、唇には紅がこってりとさされている。その時まで私は気が付かなかったが、女はたしかに厚化粧をしているのである。あんまり色が白すぎると思ったのも道理、顔にも襟にも濃いお白粉がくっきりと毒々しいまでに塗られている。―――けれど、そのために彼女の美貌が少しでも割引されると云うのではない。度強い電燈の明りや太陽の光線の下でこそ、お白粉の濃いのは賤しく見える事もあろうが、今夜のような青白い月光の下に、飽くまで妖艶な美女の厚化粧をした顔は、却って神秘な、魔者のような物凄さを覚えさせずには措かないのであった。まことにそのお白粉は、美しいと云うよりも、若しくは花やかと云うよりも、寒いと云う感じの方が一層強かったのである。