Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.514 Zeichen · 22 Bildschirme
六
と、云って呻いた。
六
永禄十一年、彼が二十二歳の春だった。その二月中旬頃から、五月末までの間、まる百ヵ日、彼は家に寝なかった。また、帯を解かなかった。
林崎明神の神殿の辺りは、真昼、木洩れ陽がすこし映す時の他は、昼も暗かった。守人の住む社家の勝手元には、黄昏れると、一椀の粥が出されてあった。それが甚助の食事であった。夜が明けると、また一椀、盆にのせて出されてある。
守人は、姿を見せない。努めて見せないことにしていた。勿論、母の楡葉も、ここへは近づかなかった。
ここは今、熊野権現の聖地であると共に、林崎甚助にとって、生死を超脱した剣の道場だった。
彼は、百日の参籠を誓願したのだった。
朝夕一椀ずつの粥を守人から恵まれる他、何も口にしなかった。七日、二十七日は、まだまだ鋭気もあったが五十日、六十日となると、肉は落ち、眼は澄み、皮膚は垢を持ちながら蝋のように白くのみあった。
――喝アっ。
――ええおうっ。
異様な声が、杉木立に谺した。
月の晩も。風の昼も。
――えやーつッ。
神殿の広前に、彼は、三尺余もある長刀を、革紐で帯にくくし、われとわが影を、月の白い地上に睨んでいた。