Japanische Klassiker mit Furigana
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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Lesen Sie 南国太平記 (なんごくたいへいき) von 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 493.291 Zeichen · 991 Bildschirme
そして、呼ぼうとしたが、どうしても、声が出なかった。八郎太は、幻のように、影のように、それから、すぐ、遠ざかってしまいそうに歩いているので、深雪は悲しくなって、駈け出そうとした。だが、どうしてか、駈けても、駈けても、父との距離が同じで――そうしている内にも、父が、灰色の中へ消えてしまいそうな気がするので
(飛びかかったら)
と、決心すると――出し抜けに、父の顔が、前に大きく、苦い顔をしていた。
「まあ、お父さま」
と、いうと、それは、江戸の邸の中であった。深雪は
(お母様も、きっといらっしゃる。嬉しい)
と、思って襖の方を見ると――急に、胸が苦しくなったので、父の顔へ救いを求めるように振向くと、八郎太の眉の上に、血が滴っていて、深雪の心臓も、身体も、頭も、凍えさした。
「誰か、来て下さい。お父様が、御疵なさいました」
と、叫んだが、誰も出て来なかった。深雪は、腹を立てて、だが、自分の袖をちぎって、疵へ手当しようとしたが、いつの間にか、袖がなくなってしまって、寝間着一枚であった。
(そうだ。ここは御殿の侍女部屋だ――だって、そんなところに、お父様がいなさることはない)