Japanische Klassiker mit Furigana
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なつくさせんき
夏草戦記
山本 周五郎
Lesen Sie 夏草戦記 (なつくさせんき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 21.107 Zeichen · 41 Bildschirme
日没のはやい谷峡はもうすっかり昏れて、空には星がきらめきだしていた、風のないむしむしする宵だった。蚊の群れが八方から寄ってくるなかで、武者たちは笑いごえもたてず兵粮をつかった、湯を啜るにも音を忍ばせるし、隣りの者と話をするのも声をひそめた、「済んだ者は腰兵粮をわけるから荷駄へ集れ」そう伝えてまわる使者の声もどこかしら押えつけたように低かった。そしてすっかり終ると、かれらは黙々として鎧や具足をつけ、新しい草鞋をとりだして穿いた、銃隊は火繩をかけ、槍隊は差したばかりの鞘をはねた、こうして今にも合戦を始めそうな支度をしてから、はじめてかれらは思い思いの場所で横になった。……このあいだに十人の兵が、部落のまわりへ立番(立哨)のために出てゆき、また副将のひとり相良官兵衛が二十余人の兵をひきいて、先鋒隊として夜道へ向って進発していった。すべてが手ばしこい順序と、ひきしまった沈黙のうちにおこなわれたので、つい隣りの村の住民たちでさえ、これだけの兵が野営をしているとは気づかずにしまったくらいであった。
竹置の部落はひっそりと夜を迎えた、平常と少しも変らない静かな夜だった、露をむすびはじめた叢のそこ此処から涌きあがってくるように虫の音が冴え、おちこちの森で鳴く梟のこえがきみのわるいほどはっきりと谷に木魂した。