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Japanische Klassiker mit Furigana

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ゆうもやのなか

夕靄の中

山本 周五郎

Lesen Sie 夕靄の中 (ゆうもやのなか) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.522 Zeichen · 19 Bildschirme

Aozora Bunko

「ええ、そうです、……繁二郎ですが」

「やっぱりそうでしたか、いねからお名前だけは伺っておりました、あれは御存じのように口の重いこでございます、詳しいことはなにも申しませんでしたけれど、でも、……病気がいけなくなってから、うわごとによくお名前をお呼び申しておりました」

彼は顔をそむけた。老女の声はふるえ、その眼はにわかに強く、期待と哀願の色をこめて、彼を見あげた。

「仰しゃって下さいまし、貴方はあれと、なにか約束をして下すったのではございませんか」いたましいほどおろおろと云った、「――あれは息をひきとるまで、貴方がおいで下さるのを待っていたようでございます、なにか、二人のあいだになにか、約束をして下すったことがあるのではございませんか」

彼は暫く答えない。顔をそむけたまま、じっと息をひそめている。それからやがて、静かに、頷いてみせた。

「――ああ」

老女は手で口を押えた。

いつのまにか靄がたって、墓地はうすい鼠色にたそがれてきた。彼は老女の語るのを聞きながら、頭はやはりあの男から放れない、耳も眼も、絶えずそのほうへひきつけられている。

「わたくしが今どんなに嬉しいか、とてもわかっては頂けないでしょう」