Japanische Klassiker mit Furigana
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ゆうもやのなか
夕靄の中
山本 周五郎
Lesen Sie 夕靄の中 (ゆうもやのなか) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.522 Zeichen · 19 Bildschirme
三
金次の傷は浅かった、しかし婿縁組を延ばす役には立った。おつやも首を振りとおし、七兵衛の気持も変った。事情は少しずつ好転し、二人の運がひらけるように思えた。けれども、半年まえに七兵衛が卒中で倒れ「代貸」だった金次の位地がはっきりと一家を押えた。……そして五日まえ、機屋の手代が金次とおつやの結婚を知らせて来た。もちろん金次の無理押しだろう、じっさいにはもう、四五十日も以前に、おつやは金次のものにされていたという。
桐生に住んで以来、堅気の職人でとおした。おつやと一緒になったら、生涯、仕立屋で暮すつもりだった。
――汚れた紙は白くはならない。
短刀をふところにとびだして来た。そのさきがどうなるか、まず金次を片づけて、後はなりゆきに任せようと心をきめて、今朝、千住の宿から市中へ入ったのである。
三
静かな足音が近づいて来る。
――さあ、勝負だぞ。
手を合わせたまま、つむっていた眼をそっとあける。跼んだ足の指先が、きっちりした足袋の中で痺れている。足音はなお近づく。なにかを憚るように、……用心ぶかく、殆んど忍び足で。そうして、それは彼の脇まで来て、静かに停った。