Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

Lesen Sie 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 285.635 Zeichen · 558 Bildschirme

Aozora Bunko

けれども、お松はこのごろになって、特に、そのわからないなりで誦している与八のお経の声を聞くと、妙に引き入れられて、われを忘れるのを不思議なりとしておりました。

今も、その与八の、わからない読経の声を聞いているうちに、何ともいえない心持で悲しくなりました。

悲しいといっても、その悲しいのは、やる瀬ない、たよりのない、息苦しい悲しみ、悶えの心ではなく、身心そのままを、限りなき広い世界へうつされて行くような、甘い、楽しい、やわらかな色を包むの悲しみであります。

ああ、わたしはこの心持が好きだ、この悲しい心持が何ともいわれないと、お松はそれを喜びます。昼のうちは、現実の働きに、お松としては、ほとんど余暇のない今日この頃、その働くことに充分の喜びを以て、たるみのない生活を楽しむことができるのに、夜になると、全く別な世界に置かれたような気持で、この悲しみに浸ることのできる幸いを、感謝せずにはおられません。

お松はこうして、与八のわからないお経を聞くことの快感にひたされながら、ついぞ与八に向って、これを感謝したこともなく、またそれを、どうぞやめないで続けて下さい、とたのんだこともありません。